「朝焼けの町を目指して」)(目録/はじめに)

これは、孤独という名の物語である。

街の東のスカイラインは、夜明け前の空は瑠璃と白とオレンジのオンブレに染められ、やがて日が昇り、万物が目覚めて美しい光景。だがしかし、晩秋の冷たい風の中で立つお前に波一つももたらさなかった。異邦人のお前は、既に空になった檸檬堂のボトルを掴みながら、ぼんやりした視野から、過去へと続く道を見出した気がする。

——「朝焼けの町を目指して」

はじめに

ところで、何でまた、小説を?

国を跨ぐ遠距離恋愛の話をしよう。俺の、遠距離恋愛に関する最も理想的なイメージはとっくの2015年に幻滅してる。2015年9月、途切れたり続いたりしてあれこれ計7年続いた恋は遂に終点まで来た。俺は、こっぴどく失恋したのであった。そして今日に至り気付いた、時間は経てば経つほど、恋に与えられた覚せい効果はクスリよりも遥か以上激しかった。

その時、俺は思った。どんな些細な事でもいいから、相手と共有し、最近どうしてるとか、何に夢中してるのとか。そして最後には音声でオヤスミを贈って、偶には自撮り写真も送り合って、からかって、今夜のおかずだよーって。結局、「おやすみ」以外は、殆どやることリストに書かれた戯れ言に過ぎなかった。それでも俺は足掻きたかった。希望をもって、また会えた日に、スーツケース転がしながら到着口から出るやいなや、彼女(あいつ)の姿が見えた瞬間に走って、彼女を抱き上げてぐるぐる何回か回転して、一緒に地下鉄で街に戻って、業務スーパーで色んな酒やつまみを買って、そしてホテルに戻って、そしてこんなことやあんなことを、或は全部まとめてヤるとか(照れ)。

こんなちっぽけな妄想でなんとか耐えてきたけど、結局、最後にトドメを刺して来たのは、温度差であった。俺も彼女も、ひどく疲れていて、もうあの二進数で復元された画像や音声の温もりを感じることができなくなった。あの温もりは、生身の人間の肌でもつべき温もりであった。何回かで、相手の不安や誤解を解消することができず、けど弁解することも厭った。無力な「おやすみ」だけが続く。知ってる、この列車は終点に着いた。もう次の駅はないということだ。

新卒で入った会社は残業がひどかった。身も心もひどく疲れていて、あの頃いつも思った。こんなの誰が為?もしやこれって、疲れで考えても仕方がない事に気を逸らすことなく済むなら、気持ちが軽くなって結構かもしれないってこと?そんなひどく疲れた時に、誰かが膝枕してくれて、頭なでなでしてくれて、乱れた髪を整えてくれる人がいたらと望んだが、これだけでも叶うことはなかった。

2018年6月のある土曜、俺は酔うまで飲んで、酔い覚ましに夜風に当たって来ようと、この新小岩に来たばかりの時に過ごした無数の眠れない夜のように、新小岩公園に来た。公園内のある公衆電話ボックスをぼーと見ていた。彼女に電話しようってすごく思ったけど、「すげー後悔してる」とか言いに。でもわかる、もうどうしようもないことだし、立派な大人は自分のしたことに責任を持つんだ。

覚せい剤のような女は酔わせてくれる。独身歴が長いほどに愛への渇きは増すものだ。ある時は前に地雷と思ってた「ヤンデレ女」も可愛く思えて、何でかというと、「病む」は言い換えれば愛が激しすぎで、病むほどに至った。それに俺の心にできた穴は、激しすぎた愛で埋められそうなもんじゃない。

眠れない夜に、何回も夢に出てくるのは、もう二度と会えない人であってほしくない。

俺は、自分の過去に永遠のさよならと告げなければならない。

明日が待っている、ここで突っ立ってらんねぇ。

それはまさに、この物語は、自分にかけられた呪いではなく、来たるべき未来への祝福であってほしいと望んだように。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体とは一切関係ありません。

学爾時習之、不亦悦乎? 有朋自遠方来、不亦楽乎? 人不知爾不愠、不亦君子乎?

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