冬の無い場所

(著)深夜狼

この小説は、私自身の経験に基づいたものであり、また私が実際体験したものとはまるで違う、別の世界線上の物語でもある。なぜ書いたかと云えば、どうしても、あの忘れがたい日々を、何かの、形のあるものにしたかったのだ。

我々はよく青春は美しいと云う。然し青春とは、何もかも美しいとは限らない。成長していく中で、自分とは何か、そして世界とは何かという認識がどんどん変わっていくのだ。あれは、今まで自分が知っている世界とは全く違うものだと解ったら、きっと、心の中で激しい風が吹く。

「いや、違うのだ、こんなはずじゃなかった。」と、反抗したい気持ちは次第に大きくなる。そして自分の思うように世界を変えるアプローチを探っていく。当然、そのアプローチ、果たして正しいかどうかは…

私が前ではこのように書いたけれども、決して自分のかつてやったことについて弁解しているのではない。私から見ればあの時は確かに過ちを犯した、それでも、去って行ったあの日々、あの「変えよう」とする自分の単純さが、美しいと思っている。それが最後になっても、最初のようにそう思えたい。

本文は、できれば時系列で書いていきたいが、都合上のタイムスリップも検討している。物語の取材は一応実体験から行っているけれども、あくまでは地名のみが実在する、フィクションである。

また、いつ完成できるか、残念ながらその見込みは当分ついていない。完成したい意欲は無論あるけれど、万一、考案上避けて通れぬバグが生じた場合、また本業に支障が出た場合は、無念ながらも筆を納めるしかない。日本語の語弊の指摘や添削で多くの方を煩わしており、諸君の好意を感謝する。

イントロダクション

2009年、中国。

猛毒食品、パクリ、テロ政府、pm2.5、これが中国。

五千年の文明、百家争鳴の思想、美味しい料理、美しい自然、これも中国。

矛盾のクラスタ、謎の塊、あらゆる要素を仕込んだ舞台、始興県の中心の町、太平鎮(たいへいちん)。

中国の南部地方、広東省の北玄関、南嶺の山々の谷間、雲海の深いところにある、時代に忘れられた悠久の町。

四面には群青色に染まれた山々、中心には墨江(モージャン)が流れる。自治体の財政に大きく貢献した農林産業は地元住民の誇り。だがそれも何十年前の話だ。今時や売れない政治屋の溜め場となり、政治上の都合により、山は削られ、工業の象徴の煙筒が春の筍のよう、勢いよく立ち上がる。産業バランスの崩壊を代価に、きれいな財政統計データと汚らわしき「功績」が創られる。昇進した官員はすぐこの町を出て上へ登って行く、満身創痍でも構わないと、町はまるで乱暴された遊女のように、乱れた服を整える隙もなく、次の顧客を待つのみ。

 暁、田舎生まれ都会育ち、家庭的事情で田舎の始興県の親戚の家に送られ、地元の県立高校に転入した。そこで彼は、高卒までの2年間、自分の高校時代を過ごした。田舎に投げ捨てられた不満、新しい環境に対する不安、何故このような事態になる疑問、そして何故他でもなく自分が、自分だけがこのような目に遭う憤怒、やがては状況を切り開くようがない脱力感。このような心構えで、彼は一体、青春に何を求めるのか?そして、どのような青春を描くのか…

第一章

中国。広東省、太平町。

 「俺はただ、ごく普通の高校生活を楽しんで、ごく普通の男子高生になりたかっただけだ」なんて、世界一の嘘だ。なぜなら、俺たち、中国男子高生は、その、「極普通」の高校生活を楽しむ権利さえ、与えられていない、一方、アニメの主人公ごときの人物はそういった平凡宣言をしながら、「普通」にハーレムを作りまくり、そこにあるはずのない異世界の怪物を倒して、救われる必要もないにも関わらず何度も「救われる」地球を救うなど、自分の平凡志望を裏切ったことを平気にやっている。

 俺にはそういうハナヤカな生活が体験できない。故に今こうして退屈極まりのない俺物語を淡々と語っているわけだ。俺の話を漫画とやらラノベとやらにしても、どうせ、寝る前の、快眠のための一冊の類に分類されるだろうと、予想さえ簡単につくレベルのものさ。

平成二十一年の七月、テレビでは例年より厳しい猛暑のニュースが流れるが、俺はまさに興奮期と呼ばれる夏休みの初頭で、夏休みに入る前から友人たちで計画していた「ザ・ワンダフル・ライフ・オフ・ザ・シー」を満喫する気満々の気分であった。

ところが、それを実施する前日…

親父からいきなり「お前は叔父の処へ数日泊まって来い。」と云われ、何故とも訊かせぬ、「いいからサマーリゾートに行くつもりで行けばわかる。」と、適当に誤魔化した。何か怪しいとは思うがどうせ当分やるべきこともない、こういう事情で、行程は決められた。

広州から始興まで、4時間を車上で過ごせば尻も痛みを覚えてくる。そろそろ韶関市の郊外に新幹線の駅ができる話も出ているが、どうも年内、いや、ひょっとしたら来年できるかどうかも微妙な話だ。早く出来れば、始興まで一本では行けないがこんな目に遭うこともなく済んだのにと、心の中で愚痴をこぼれた。

叔父の車から降りて、やっと親父が云う「サマーリゾート」に着いた。

暑い。もう死ぬほどに暑い。

周りを見回せば、ここは山に囲まれた静かで小さな町。そして今目の前にそびえているのはこの町で指折りの高級マンション「万城」。

よくもこの私をこんな田舎に放り出したなと親父に思いながらも、感服せざるを得ない。

とりあえず車から荷物を降ろした。

「あらお父さん、お帰り。」

幻聴かと思うぐらい、気持ちいい声が聞こえた。

声のする方へ目をやると、パジャマ姿の黒髪を無造作に束ねた少女が立っていた。

彼女は瑜(ユー)、叔父の一人っ子の娘で、当時の政策上では一人目の子が男の子であれば、二人目産んでいいぞという特別な政策があるらしい。だが叔父は何故かこの好機を逃して、ただこの娘を極めて丁寧に育てた。俺は小さい時、彼女と一緒に遊んでいたが、親父の広州への異動の決定によって別れた。こうして会うのは、せいぜい、お盆かお正月かの帰省ぐらいの、珍しいことであった。それが原因か、目の前に立つ彼女は、格別に見えた。

なんて愛らしい…

「あ、瑜、ちょうどいい、お前のあんちゃんのスーツケース運んで。」

叔父は彼女に見とれて呆然としていた俺を現実へと引き戻した。叔父に促され、挨拶する。

「やあ、久しぶりだな。」と気安く手を振った。

「あんちゃん、ひどいわ、都会で毎日素晴らしい生活満喫してるでしょう、あたしのことなんて、忘れてるでしょう。」

 幼い頃は、いつも俺の後ろについてくるお尻尾のような存在だった。年でもなれば少しは控えるが、それでも変わらないものがどこかにあった。なんせ、帰省するたびに、俺の処に遊びに行くと誘ってくるのがその証だ。俺は田舎の親戚のしつこさに苦手で、彼女の誘いは、俺にはむしろ一種の救いであって、俺はいつも喜んで受けた。

「忘れるなどしないさ、ほらこれ。」

 とっておきの手土産を、彼女の手に渡した。

「開けてみ?」

彼女は渡された紙袋から紙箱を取り出して、開けて中を覗いた。そしてすぐ閉まった。

「本当に買ってくれたね、あんちゃんの…」

中に入っているものは、某大手メーカーの新型スマートフォンだった。これは、彼女がある日、俺と電話で携帯電話の話をした。なんと、クラスの連中みな携帯持っている、それなのに叔父は大事な娘が携帯を持つなんてとんでもないと言ってこれに反対した。可哀想と思うこともあれば、義理とは云えども、妹を可愛がる気持ち、俺にはあるのだ。そういう意味で俺も変わっていないなと、感心した。俺は彼女の反応を楽しみにして待っていた、案の定、それが来て、俺もさらなる反応を求めた。

「うん?何?」と、微笑みながら、続いてくる言葉を迫る。

されどこの企みはうまくいかない。

「疲れただろう。さあさあ、中へ入って。話は後だ。」

いいところに車を車庫に停める叔父が戻ってきた。

惜しい!

彼女は口を膨らんで俺をちらっと見た。俺は微笑んで彼女の表情を楽しんだ。

ああ、何度やっても飽きないな。

談笑しながら、マンションのエレベーターへ移動した。

エレベーターは十三階半でとまった。

このマンションには十四階が存在しない。可笑しいと思うが漢字文化圏ではみなそれを不吉と言って避けていた。

ここの十三階半は最上階で上は屋上になる。そもそも半と書かなくてもそのまま十四をなくして十五階にすればいいのにと、俺は常々思っているのだが、なんと可笑しい現代人ねぇ。

エレベーターを降りて、奥のドアの前で止まった叔父は、鍵を鍵穴へと差し込んだ。

カチャという音とがするとともにエプロンをつけて手に包丁と大根をもった叔母が温かく迎えてくれた。

「あら、暁ちゃん~お盆から数か月だけど痩せてない?ふふふ~」

と気さくに声をかけてくれた。

「そんなに太いのが好きなのか叔母はー」

「そりゃ太いほうが素敵と思わない?ねぇあなた?」

「まぁまぁ、向こうじゃそれがファクションだろう。ところで暁、話はお前の父さんから聞いてる、早速だが客室へ案内しよう。」

「そうね、自分のうちのように寛いでいてね。ここは広州と違って田舎だから退屈かもしれないけれど、ここ数日は申し訳ないけど我慢して、ね。あ、それと、この娘はいつも暇してるから、よかったら一緒に遊んでやってこんな町だけど、きっと好きになれるよ。昔みたいに。」

少し辛そうな表情を浮かべながら叔母が言った。

「なーに、俺はもともと農家生まれだし、大丈夫だよ。」

俺は叔母にそれを笑い飛ばした。

叔父が俺をよんだ。

「暁、ちょっとおいで。」

階上から聞こえる叔父の声を頼りに階段を上っていくと廊下の一番奥の部屋の前に叔父を見つけた。

「この部屋客室にしては豪華だが、お前が住むならちょうどいい、どうだ。」

「そんな…?こんな広い部屋、わざわざ俺のために使うなんて…」

「遠慮無用だ、お前が来る前ずっと空いていたからな、あ、そうだ、インターネットはまだ繋がってないぞ、明日光とやらの者を呼んでくるからその前もう少し我慢しろな。」

家族とはいえここまでやってくれるのはさすがに恐縮を感じる。

「あなた、瑜、暁ちゃん、ご飯よ~」階段の下から叔母の声が聞こえた。

「は~い」と返事しながら階段を降りた。

台所から料理をテーブルに運ぶ叔母と炊飯器からお汁茶碗にをお汁をつける瑜、何か母性的雰囲気を感じる場面であった。

 こうして食卓を囲んで一家団らんを楽しむのは久しぶりだ、可笑しいと思うかもしれないが、俺の両親は、あまり仲のいい夫婦とは言えないのだ。食卓囲んで一緒に家族の食事を楽しむことは、小学校以来のものだった。親戚との家族飯くらいで泣きそうになるなんて、まったく、みっともないものだ。

しゃもじを右手に、左手で大盛りした茶碗を渡す叔母。

「さあさあ、いっぱい食べて、今日ね、久しぶりに頑張っちゃった、てへ~」

錯覚か、叔母は一瞬、10歳若く見えた。

「お母さんずる~い、あたしの誕生日だってこんなご馳走じゃなかったのに、うう~」

叔母は笑いながら箸で俺のお碗にじゃがいもと豚肉を挟んだ。

「あ…どうも…自分でいいから叔母も食べてよ。」

「お母さんっだら、あんちゃんもう子供じゃあるまいし」

「だろう、お前いつまで暁を子供扱いするつもりかい?」

「叔母の前暁ちゃんはいつだって、子供でしょう。ねぇ、暁ちゃん?」

「あはははは…」

お碗の中にいつの間に料理に盛られ、気持ちだけで満腹になれそう気がする。

 食事を終え、叔父はソファーで寛いで新聞を読み始め、叔母と瑜は食卓を片付ける。何かお手伝いをしようと云うけれどきっぱりと断られた。仕方なく俺は部屋に戻り、荷物を出して整理し始める。

親父が云う「数日」という概念は実に曖昧らしい、俺も万一に備えるために一週間の着替えを用意した。まあ大丈夫だろうと思ったら、おっといけない、携帯の充電器をそのまま家に忘れた。携帯は少し高価なブランド品で、ここであうものが見つからない覚悟もして、俺は瑜に声をかけた。

「瑜、これから買い出しに行くんだけど、来る?」

「ええ、ちょっと支度してくるから、待ってて。」

30分後、私服に着替えた瑜はご機嫌の様子で、俺と出かけた。

この町昔では夕飯の時間がやや早い、夜のプログラムもそれほど多くはない。せいぜい、河辺でのお散歩か、どっかの茶屋で麻雀をして、そして帰ったらすぐ寝る。週末でないとあまり遊ばない。それが、いつの間にか、茶屋街では煙草の臭いと麻雀の騒音が通りすがりの人に鼻と耳、どっちを塞いだほうがいいかを悩ませるぐらいのもので、高速バスターミナルの近くに新しく出来たクラブでは門前にバイクや高級車が並び、一晩中ともし火が消えぬまま夜明けを迎える盛況であった。

 ずいぶんと賑やかになったと感嘆しつつ、一軒目の大型電器屋へ向かって大路を歩いている。瑜はいつもよりテンションが高いようで、会話の内容はいつも電話で話しているものとはそう変わりはしないが、こうして距離を取り除いたらかえってリアルを感じた。町は狭い、学校の仲間と偶然会うたび、挨拶する。その頻度は、お店三軒ぐらいの距離にして一回ぐらいするものだった。

「ねぇあんちゃん」

「何だい?」

「さっきの女子ね、あんちゃんのこと、あたしのこれ、っと勘違いしたみたいよ。」

小指を見せながら、得意げに笑う。

「本当?じゃ、俺、瑜のあれになろう?」

「へえ、可愛い彼女をほっとけてあたしでいいの?」

「そうだな、あの子すぐやきもち妬いてくるからな。」

真剣に考え込んでいる様子を見せて、それを見る瑜は急に俺の腰をつまんだ。

「痛っ!」

「もおお~バカ!」

と早足で先を歩く、俺は笑って追いついていく。

つづく

信雅

Master of TERNS. Focus on WordPress/PHP/Cloud Computing/Space Science Pronunciation of my name: Xin4Ya3(Chinese), Hsin4Ya3(Another Chinese), しんや(Japanese), Shinya(English).

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